朝一から並ぶ価値
「朝一からパチンコ屋に並ぶ価値なんてあるのか」
この問いはパチンコ・パチスロ愛好家が一生付き合っていかなければならない、言ってしまえばお叱りの言葉です。
私が今その問いをぶつけられたら、ないと答えるか、回答を濁すでしょう。しかしあの日の私に聞けば、きっとこう答えるでしょう。
「もちろん、ある」
計算通りの沖ドキ
「とみーさんは何打つんすか」
共に開店の列に並んでいた後輩が私に話しかけました。
当時私が住んでいた県のパチンコ屋は九時に開店するのが一般的でしたが、早めの開店時刻にも関わらず、優良店の開店前には多くの人が並んでいました。
この日は土日ということもあり百人を超える客が並んでいたのを覚えています。
「沖ドキかな」
私が狙っていたのは沖ドキのリセット台でした。
知らない方のために軽く説明しておくと、スロットには当たりやすいゾーンというものがあり、沖ドキではそれが最初の二百回転以内(要するに朝一)に設定されています。
もちろんその設定を行うかどうかは店によりますが、この店は設定するタイプの優良店でした。
ようやく開店時刻を迎え、各々が狙い台へと急ぎます。狙い台はどうでしょうか。
空いています。
早速諭吉を投入していきます。
「光れ」
諭吉投入後の願いは至ってシンプルです。千円、二千円、早くも二千円で当たりました。
狙い通りの台で狙い通りの投資額で初当たりを引き、私は小さく頷きました。
スロットを打ったことがある人はわかると思いますが、スロッターは当たると何故か頷く傾向にあります。
しかし自分はそうやって頷くくせに、人が頷いているのを見ると腹が立つのは何故でしょうか。私の心が狭いからかもしれません。
話はスロットに戻り、幸運なことに三連、四連と当たりは続いていきました。最終的に当たりは千二百枚を超えたあたりで終了し、私は投資二千円に対し、二万四千円ほど回収することに成功しました。
神との出会い
時刻を確認すると、一時間ほどしか経っていませんでした。一人で来店していればさっさと帰宅するところですが、この日は後輩もいたので後輩を探してみます。
様子を見ると、当時の大人気機種、バジリスク絆に夢中でした。
私は後輩の遊技が終わるまで打てそうな台を探してホールをウロウロしたり、ソファで煙草を吸ったりして待っていました。
そしてお昼が近くなったころの数度目のウロウロで、私は唐突にその台と出会ってしまったのです。
七百回転で捨てられていたアナザーゴッドハーデスに。
スロットには多くの場合で天井というものが設定されており、当時は天井恩恵というものが用意されていました。
簡単に言うと、ボーナスを引かずに規定回転数に到達した場合には救済措置をつけますよ、という機能です。
そして当時のハーデスは大体千六百回転に、天井が設定されていました。
つまりこの台はあと九百回転(約三万円)で天井に到達し、恩恵を受けられるということです。
いつもなら打ちませんが、この日の私の手元には二万四千円の回収がありました。
「打つしかない」
そうして私とゴッドの戦いは始まりました。
長い時間をかけ、回転数は順調に積み重なり、天井に到達しました。コインはなくなり、本日の投資合計額は九千円を数えていました。
天井で当選し、ボーナスのゲーム数が抽選されます。そしてこの日の私は、何か持っていました。
抽選結果はなんと八百ゲーム、それ以前も以降もお目にかかったことのない、自信最高記録でした。言ってしまえば、これは四万円分のコインを約束されたようなものです。
私は例のごとく、大きく頷きました。
順調にゲーム数を消化していると奇跡が起きます。
ブツン。
やった、フリーズだ。
さらに四桁のゲームが上乗せされ、コインが吐き出されていきます。
そして更にもう一度、ブツン。にわかには信じがたいほどの強運でした。
結局私は天井の当たりとフリーズを二回消化し、三千四百ゲームを消化、一万枚超えのコイン(金額にして二十万円以上)を手に入れました。
山積みにされたコインケースを見た後輩は若干引きながら、私に言いました。
「とみーさんはマジでユニバーサルの台と相性いいっすね」
使い道
翌日、私は彼女に一部始終を話し、どこか行きたいところはないか聞いてみました。彼女の返答はUSJ。
「デ●ズニーじゃなくていいの」
私は彼女に問いました。
「今はデ●ズニーより、ユニバでしょ。とみーさんの好きなエヴァもやってるし」
キラキラした笑顔で彼女は言いました。
私はニヤリと笑った後、頷きました。
「エヴァがあろうとなかろうと、俺はデ●ズニーよりユニバーサルが好きさ」